修了生インタビュー
- 紺野 博行
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2022年10月現在
国土交通省 大臣官房 参事官(物流産業)
霞が関での「課題設定能力」を求めて
2007年に米国留学から帰国後、本省や地方出先機関で法律改正や国際会議への参加など責任ある仕事を任せられていたものの、次第に目先の業務に忙殺されて物事を深く考える時間が少なくなるにつれ、「このまま管理職となって重責を担えるのだろうか」という漠然とした不安が募るようになりました。奇しくもそのような時期に、人事課から東大EMPの話を聞き、職場や家族との調整に不安を感じつつも面接を受け、晴れて第15期生となることができました。
受講中は文字通り寸暇を惜しんで課題図書に向き合い、自分がこれまで触れる機会が少なかった思想・哲学や理系科目、循環思考や社会システムデザインなどの未知のテーマからも逃げずに(逃げられずに?)必死に食らいついたことで得られた新たな知識と、講師や民間企業や地方自治体、経営者など様々なバックグラウンドをもつ同期生との議論で広がった自分の視野とが相まって、長年霞が関に凝り固まっていた自分の思考回路が再起動されたように思います。
東大EMP修了後から4年後の2020年8月、現在のポストである大臣官房参事官(物流産業)に就任しました。我が国の物流業界は、長らく労働力不足や災害時のサプライチェーンの維持が課題とされてきましたが、さらに近年は新型コロナウイルス感染症の流行を契機に物流DXや標準化、脱炭素化、そしてウクライナ情勢に伴う物価高騰など事業環境が急速に変化している中、モード横断的に物流産業の将来像を描き必要な政策を推進していくのが私の役割です。
これらの複合的課題に対応するためには、単なる前例踏襲主義や利害関係者に迎合するのではなく、物流産業の現状を的確に把握し将来を予測した上で改革の方向性を見定めることが必要不可欠です。具体的には、関係省庁、関係業界や国会議員、地方自治体等のあらゆるプレーヤーの立場を俯瞰し、過去の政策との整合性を図りつつ、時には過去に想定外とされた事態まで想像力を働かせて課題解決のための最適ルートを愚直に見出す「課題設定能力」が求められます。物流は国民生活や産業・経済を支えるエッセンシャルサービスであり、多岐にわたる関係者との間で骨太の議論を戦わせることになりますが、東大EMPで過ごした濃密な時間で培われた物事に対する真摯な姿勢と講師や受講生の方々との議論で育まれた絆が行政官としての私の礎となり、重責を担う上での自信に繋がっています。
修了生となって早6年が経過し、講義で扱った最先端の研究テーマが日々のニュースを賑わせるたびに東大EMPの先見性や普遍性を実感していますが、あの刺激的な日々をまたいつか味わいたいと思ってしまう最近です。